Fab11 Report – Day 4
こんにちは、FabLabShibuyaマスターの井上です。
だいぶ時間が経ってしまいましたが、世界ファブラボ会議(Fab11)のDay4のレポートです。
Day4はFab11の実質的なメインイベント、「Fab 11 Symposium: How to Make (Almost) Anything」です。イベントページを見てもわかる通り、錚々たる面々がスピーカーとして並んでいます。
http://www.fab11.org/how-to-make-symposium/
会場となっているシンフォニーホールは、名高いボストン交響楽団の本拠地であり、世界で初めて科学的に音響設計されたコンサートホールとのことで、建築と科学が交差した場所という意味でもFab11のメインイベントにふさわしい会場です。
写真:ボストンシンフォニーホール
今回のFab11のテーマは「Making:Impact」。約10年にわたるFabLabの活動を振り返り、Day1からDay3にかけて開催されたイベントやワークショップも、各ラボがこれまでに培ったノウハウや成果がいかんなく発揮されているものばかりでした。それらはFabLabのグローバルネットワークの中で様々な展開を生み、同時にローカルに対して影響や変化を与えた事例も少なくありません。昨今のメイカームーブメントの中でFabLabが与えてきたインパクトを、大小区別なく垣間見ることのできたイベントだったと思います。
トークセッションはデザイン、ビジネス、ツール、リサーチ、コミュニティ、エデュケーションの6つの分野に分けて行われ、それぞれの第一線で活躍している方々が登壇されました。セッションの模様は全て動画で公開されています。
トークセッションの後は、Global Fab Awardの受賞者発表、来年のFab12の開催地である中国・深圳チームへの引き継ぎ、そして恒例のFab Academyの卒業式へと続いていきました。
Global Fab Awardは昨年のFab10(バルセロナ)で初めて実施され、今回で2回目です。今年は66のプロジェクトがエントリーされ、第1位には「EMOsilla – Fab Lat Kids」というプロジェクトが輝きました。これは世界15カ所以上のFabLabが連携して行っている、MDFを主材料とした子供用の椅子を作るワークショッププロジェクトです。グローバルネットワークを強みとし、その関係性の中から新しいものを作る社会を目指すFabLabらしいプロジェクトが受賞したといえます。来年こそは渋谷からもエントリーしたいですね。
http://www.creafablab.com/formacion/emosilla-5-0-en-fab11/
Fab12チームの引き継ぎではShenzhen Industrial Design Profession Association (SIDA)のShirley Feng氏が登壇し、世界のあらゆる分野の製造業を支える中心地といっても過言ではない深圳の今を伝え、FabLabの次の10年につなげるイベントとして期待されています。
最後のFab Academyの卒業式では、世界各地のFabLabで(ほぼ)なんでもつくるためのスキルを学んだ139人もの卒業生が誕生しました。各自が最後に発表したプロジェクトのスライドを眺めながら一人ずつ紹介され、卒業証書が渡されていきました。
【Fab11まとめ】
Fab11は8/9のDay7までありましたが、Day1からDay4までで井上のFab11探訪は終了です。FabLabの活動が10年の歴史を経て発祥のMITに帰ってきたこともあり、参加者は1,000人を超えました。昨年のFab10バルセロナは500人、Fab9横浜は200人とのことなので、ほぼ倍々で増えてきている計算になります。FabLab Japanの田中浩也さんもレポートをまとめておられますが、ここからは井上個人の所見を書いていきたいと思います。
言わずもがな、FabLabは「市民に開かれた工房」で「各FabLabをつなぐネットワークと相互連携」がその特徴です。また連携を円滑に進めていくために、デジタルファブリケーションを重要なメソッドして取り入れています。世界FabLab会議の参加は横浜に続いて今回で2回目ですが、この1年の総括であると同時に、発足から現在までの総括という雰囲気もありました。テーマである「Making:Impact」も、これまでの成果(ならびに昨今のメイカームーブメント)が社会にどのような影響を与えてきたかを振り返る内容が随所に見られました。
同時に、FabLabが次の10年に向けてどのようなプレゼンスを社会に提示していくのかを問う内容でもあったように思います。来年のFab12が中国・深圳という、いわば大量生産の世界的中枢で開催されるのもひとつの象徴であるように感じました。FabLabが培ってきた個人(および個人間の連携)によるものづくりと、大量生産のものづくりのプロセスは当然大きく異なります。同時に、FabLabの活動は必ずしも大量生産のプロセスに吸収されるべきものではありません。これまでの10年で培った様々なノウハウのうち、何を残し、何をアップデートするのかが今後問われてくるような気がしました。
FabLab Shibuyaは、Fabという概念やメイカームーブメントが一過性の「流行り」で終わらないようにするためにはどうすればよいかを考えながら活動してきました。それは次の10年を見据えるという上記の問いかけにもリンクします。その中で我々が重視しているテーマのひとつとして、Fabを経済活動として成立させるという点が挙げられます。FabLab Shibuyaの場合、他企業との連携から生まれた「&Fab」や「湘南ラウンジ -Fab Space-」、「Cainzデジタル工房」などは、そのテーマにおける現段階での成果といえます。
そしてFabLabにとって重要な要素として「コミュニティ」があります。FabLabというアクセスポイントがハブとして機能し、ローカル・グローバルの垣根を越えて作り手をつなぎ、コミュニティを形作っていくのがひとつの理想です。ただ、このコミュニティという言葉・概念を美しいと思う一方で、とてもデリケートに扱う必要があると考えています。「コミュニティ」とか「オープン」といった言葉は最近よく耳にしますが、時間が経ち、コミュニティが大きくなればなるほど、いつのまにかコミュニティ内に妙なパワーバランスが生まれたり、クローズドに見られたりするのはよくあることで、内輪でワイワイすればするほどその傾向は強くなっていきます。いちFabLabマスターとしては、そういう時はなるべく隅っこの方にいる人に声をかけたいと思っています。
一方で、この“近くて固い”コミュニティを健全なまま維持できる規模には限界がある気がしています。例えば世界中にファンがいるミュージシャンがいるとします。ファンクラブのような“近くて固い”コミュニティに入っていなくとも、今はネットを通じて交流できたり、稀に同好の人に出会って話が盛り上がったりするわけです。これは厳密にはコミュニティとは呼ばないのかもしれませんが、こうした“遠くて柔らかい”共有意識をどう形成していくかが次の10年の鍵だと思っています。その回答のひとつとしてFabをどこまでダイナミックな経済活動として成立させるかを重要視しています。先のミュージシャンの例で言えば、“世界中にファンがいるくらいの経済規模”というものを容易に想像できるからこそ、例えとして成り立ちます。それは必ずしも「メジャー」である必要はなく、「インディーズ / アンダーグラウンド」でも成立しますが、「アマチュア」では“一過性の流行り”として話題になるのが限界だと思っています。大量生産というメジャー路線でもなく、当然アマチュアでもない、アングラな落とし所を模索していきたいと思います。