【Fab12レポート】未来を創造する 〜その2〜
その1はこちら
ご存知の通り、「循環型社会」あるいは「持続可能な社会」という言葉は、近年よく語られているテーマです。今回のFab12では、その実現に向けた布石ともとれる発表が多かったように感じます。それらが総じて「FabLab 2.0〜」の宣言を後押ししているような印象を見て取れました。
例えば、今年は例年のFab Academyに加えてBio Academyも試験的に開講され、日本からもFabLab Hamamatsu / Take Spaceの竹村さんやYCAMの津田さんらが受講し卒業されました。近年日本でも盛んに聞かれるようになった「バイオ分野」ですが、その可能性・未来像について明確なビジョンを持っている人は少ないかもしれません。ARにおける「ポケモンGo」のような成果が生まれれば、その認知とともに参加者も一層増えるのでしょうが、まだその段階には至っていないフロンティア分の多い領域と言えるでしょう。狭いようで実はとてつもなく広いバイオという分野ですが、FabLab 4.0で描かれている「自己増殖・自己生成」あるいは「循環」という現象を実現する主要テクノロジーの一つに挙げられることは想像に難くありません。Bio Academyはその担い手を育成する主要コンテンツとして、今後も継続されるでしょう。
Fab Academy関連でいえば、今年は大きなアップデートがたくさんありました。現在のFab Academy はHow to make (almost) Anythingをテーマに「作り方」にフォーカスしており、実技内容の多いカリキュラムです。そんなFab Academyに対応するように、作るもののコンセプト深度をより深めるためWhy to make (almost) Anythingをテーマに新たなAcademyがスタートします。講師は世界的な現代アーティストのオラファー・エリアソンが務めるということで、驚きをもって迎えられました。
ここからは個人的な私見ですが、おそらくFabLab は「FabLabで何が作られたか」を語るフェーズを終え、「作られたものがどんな社会的価値を持つか」が語られるフェーズに移行しようとしているのだと思います。FabLabと関わりが有る無しに関わらず世界各地にメイカーが居て、星の数ほど「もの」が作られている中で、これまではどこかその行為そのものが礼賛されてきました。教育など、その価値が認められる分野がある一方で、2002年の発足よりメイカームーブメントの一翼を担ってきたFabLabとして、作られたものの価値が問われる流れを作りたいのだろうと予想します。オラファー・エリアソンがどのようなカリキュラムを立ててくるのかは今のところ不明ですが、単にアートやデザインといった分野に縛られず、あるいは有形無形も問わない、社会をより良くするためのアイデアとコンセプトメイキングにフォーカスしたカリキュラムになるのではないかと思います(期待も込めて)。そのカリキュラムから生まれた成果は、先に述べたFabLab 2.0以降に繋がっていくのは言うまでもありません。
このWhy〜の部分にフォーカスすることは、日本にとっても好ましい状況を生む可能性があると思っています。今回のFab12で話したメキシコからのある参加者は、今年のFab Academyの卒業生でした。彼の専門は「哲学」だそうで、Fab Academyの内容はどれも未知のものばかりだったそうです。実のところ、Fab Academyの受講生には彼のようにものづくりと直接関わりのない分野からの参入が望ましいと思っています。自分にFab Academyの受講経験はありませんが、全てとは言わないまでもおおよその内容は理解できます。一応過去10年強、ものを作ってきたキャリアがあるので、半年のカリキュラムで得られるもの以上の経験はあるつもりです。ある一定以上のHowを知っている自分にとっては、Howをより一層掘り下げることに価値を置きつつも、それ以上にWhyを深化させ、Whyを正しく表現するノウハウにより魅力を感じます。アーティスト、デザイナー、エンジニアなど肩書きはそれぞれですが、日本のメイカーの多くがそうしたものづくりのバックグラウンドを持った人たちで構成されていることを考えると、同様の答えに行き着く人は多いのではないかと思います。
Fab Academyの展開としては、地域の言語と時間帯にローカライズして行うFab Academy Xや、子供向けのカリキュラムとしてFab Academy K-12の発表がありました。前者については、特に日本をはじめ東アジアのようにボストンとの時差が大きい地域にとっては、受講生にとっても会場となるFabLabにとってもありがたい動きです。一方で、世界のFabLabと繋がって実施するというコンセプトに対して、日本国内だけで実施するカリキュラムを構築しても大きな意味はなく、少なくとも東アジア・東南アジア諸国との連携が必要になってくるでしょう。他国のFabLabと連携しながら膨大なローカライズ作業が必要になることや、英語圏ではない国同士で実施する中でのランゲージバリアーなど、超えるべきハードルが多いということも同時に感じました。
<続く>
文・井上恵介