【FAN3 Report】Vigyan Ashramへ(Day 2)

1/12~18までの1週間にわたって開催されたFabLabアジア会議(FAN3)
FabLab Shibuyaからは井上と山本が参加しました。
1日ずつ、交代で現地のレポートをお送りします!


DAY2 (1/14)

こんにちは。
FabLab Shibuyaの井上です。

FAN3の2日目は、早くも今回のFAN3のハイライトのひとつともいえるVigyan Ashram(ヴィジャンアシュラム)へ。早朝6:15に会場となっている大学に集合し、バスで現地に向かいます。ムンバイ市内は日中の渋滞がひどく、バスのような大型車両は渋滞が始まる前に市外へ出るというスケジュール。


ムンバイの喧騒から離れて、のどかな風景が広がる

片道4時間ほどかけて目的地のVigyan Ashramに到着。Vigyan Ashramは、プネー郊外にある農村であり、FabLabを内包した一つの研究・教育機関として機能しています。上の写真のように、決して豊かとはいえない土地で農業を効率良く行うための数々の研究開発が行われています。


Biome Automation Systemは気温・湿度・土壌水分量をモニタリングし、
必要に応じて特定の電源をスイッチングすることで水や肥料を与えることができるデバイス

研究というと、日本では最新・最先端といった言葉を連想します。Vigyan Ashramはそうした日本的な豊かさとは異なり、限られた資源のもと、いかに自分たちの環境をより良くしていくかを真摯に考え、実験し、その成果をリリースしています。ムンバイはインド有数の大都市ですが、国内のほとんどは都市化されておらず、人口のおよそ7割が農業に従事しています。Vigyan Ashramでの研究は、そうした人々の生活をより良くするために行われています。


村のすぐ外に建てられたジオデシックドームは温室であり、
開発したデバイスなどの効果測定を行う実験施設でもある。
当然ドームもVigyan Ashramで作られており、温室そのものの効果測定も行っている。


ドーム内部の様子。
限られた水を効率良く活用することで、より高価な作物を育てられるように努めている。

次に案内された畑は緩やかな階段畑になっており、サイフォン効果を利用して非電力で水を上から下へ流しています。畑のさらに下には生簀があり、食用の魚が放されています。生簀で再度ミネラルを蓄えた水は再び畑の上段から流され、いわば自然環境の水の流れをミクロなスケールで構築しているといえます。


階段畑の農作物は荒涼とした風景で一際緑が生える。

Vigyan Ashramの工房は綺麗に整頓され、とても使い勝手の良さそうな環境を維持していました。木工機械に比べて金工機械が多く、実用的な機械や道具を作るにあたって金属加工の方が多いとのことです。他のFabLabではあまり見られないCNCプラズマカッターもありました。


Vigyan Ashramの工房内景。
左奥がCNCプラズマカッター。

工房内には、Vigyan Ashramで開発された様々な機械や道具が並べられていました。研究・教育機関としてVigyan Ashramでは日々様々な実験と試行錯誤が行われていますが、その中でも特に優秀な成果の幾つかは製品化され、市場に出回っています。どの開発品にも共通しているのは、平均的な農家の収入や農場のスケール、土壌・環境特性や農作業のスタンダードなど、インド農業の実態を意識している点です。


中小規模酪農家のための鶏卵の孵化機。
温度や湿度を自動調整し、150~5000程度の卵を一括管理する。
すでに15ユニットほどの販売実績があるという。


手引きの田植え機。
奥に見える中国製の田植え機を参照しながら、インドの土壌や育成方法にあった機構にリニューアルしている。


我々にも馴染みのデジタルファブリケーション機材が並ぶ部屋では、
義手の研究開発が行われていた。
exiiiのHACKberryをベースにした義手もある。


直径4mほどもあるソーラークッカーの焦点は300度ほどになり、
料理だけでなく温水を作ることもできる。


粉砕した生ゴミから発生するメタンガスを食堂のインフラに還元するための実験装置。
意外なほど嫌な臭いがしない。

屋内外のあちらこちらに並ぶ開発品を見ても分かる通り、日本のメイカームーブメントに根ざすDIYカルチャーの精神性とはかなり異なります。あらゆるリソースが不足している環境で求められる豊かさと、リソースフルな環境で求められる豊かさの違い。どちらが正しいとか、あるいは狭義の贅沢といったことではなく、どちらの環境にも不足している豊かさがあるから「作る」。

果たして日本で求められる豊かさとは何なのか、そのためのFabの役割とは何なのかを大いに考えさせられる訪問になりました。

文・井上


見慣れない木の実が落ちていたので、拾って現地の人に聞いてみた。
カスタードアップル“という果物だという。
季節が季節なら、甘い果肉を楽しめるという。

2017-02-05 | Posted in ReportNo Comments » 

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